2017年 11月 の投稿一覧

「なくてはならないアクセント辞典」

ナレーターの仕事道具として、アクセント辞典は必携です。
私の知る限り、NHK出版と三省堂、2か所から出ています。放送業界ではNHK出版のものが多用されているようで、私もNHK出版のほうを使っています。(旧版は電子手帳に内蔵され持ち歩きにも便利でした。スマホアプリにもなっていましたよね。)
※2019.12.25追記:新版待望のアプリが発売されました。(iOSアプリのみ)

※ちなみに私が初めて買ったのは三省堂「新明解日本語アクセント辞典」でした。(複数選択肢があるのも知らずに本屋さんに行き「これでみんな勉強してるのか…!」と笑)三省堂は同業仲間のあいだで「東京アクセント寄りらしいよ」と言われていましたが、もちろん標準アクセントと大きく違うわけでもなく、使い勝手もよかったという印象です。

※もうひとつちなみに三省堂はWeb辞書(大辞林)からもアクセントが調べられます。言葉の横に数字が付いており、[0]=平板、[1]=頭高、[2][3]等で中高…などとアクセント位置がわかります。

標準的なアクセントは、時代とともに変化します。
NHKのアクセント辞典も昨年(2016年5月)大改定され「NHK日本語発音アクセント新辞典」として生まれ変わりました。(その前の改定、白表紙から緑になったのが1998年。時の流れをひしひしと…)

大きな流れとしては、平板化への許容。

  • 「ユーザー」は、旧版で「ユーザー」一択だったのが、第2アクセント「ユーザー」が追加に。
  • 「スピーカー」は、「スピーカー」一択から、第2アクセント「スピーカー」を追加。
  • 「キャラクター」は、「第1:キャラクター、第2:キャ/ラクター」だったのが
    「第1:キャ/ラクター、第2:キャラクター、第3:キャラクター」に。(個人的には頭高で使われる場面がちっともわからないです…)

カタカナ以外では、

  • 「化粧水」が、旧版「ケショースイ」一択が、第2アクセントとして「ケショースイ」追加。ちょっとホッとしませんか?
  • でも落語の「高座」は「コーザ」一択だったのが、第2に「コーザ」が追加。ああーこの平板化は抗ってほしかったかも。

ホッとする系では、つらい尾高&平板からの解放。

  • 「熊」は「クマ」一択だったのが、第2アクセントとして「クマ」OKに。
  • 「甘い」は「アマイ」一択だったのが、第2アクセントとして「ア/マイ」も追加。
  • 「賃貸」に至っては旧版「チンタイ」一択が訂正され、「チンタイ」一択に。ホッ!!

など。
ずいぶん変わりました。編まれた方々の仕事を考えると頭が下がります。
※新辞典のアクセント表記は、音の下がり目に\記号をつけるのみとなっています。(平板は ̄記号。)このコラムの表記ではパッと見てわかりやすいかな?と下がり目のほかに上がるところにも/記号をつけています。慣れている方には邪魔な表記ですがご容赦ください。

しかし。実際の仕事ではアクセント辞典にさからうこともしばしば。業界内で耳慣れた特有アクセントもありますし、エンドクライアントのご判断が最終的な正解、という着地は制作あるあるかと思います。
自分のやり方としては、複数選択肢があるものは出来る限り例を挙げて質問をして、比較した末に決めていただくようにしています。時に「(どうしても勘違いしていらっしゃる…公の場に出すならこちらのほうが…)」とつらい瞬間もありますが、質問すればほぼ皆さん前向きに検討してくださいます。そんなときにも、NHK日本語発音アクセント新辞典は心強い友となってくれているのでした。

新辞典のまえがきに書いてありました。載っていないからといって「間違っている」「おかしい」と否定しているのではなく、「ある程度改まった場面」でも「多くの人に自然に受け入れられる」ものを示すように作ったのだと。

届けたい言葉が、素直に届くように。
違和感なく、伝わりやすくするためのアクセント基準。
自分の標準もあやしいもので、完璧ってなかなかむずかしいことですが、都度、基準を確認しながら臨むようにしています。

新辞典はボリュームアップして、価格もアップ。買い直したときは正直ちょっと震えましたが(笑)これ無しではまともな仕事ができません。
ぜったいに、必要な、道具なのでした。

[オフィスあるこナレーション音声制作] 運営兼ナレーター 木場本和枝

「スタジオ or 宅録。」

ナレーションの収録はスタジオで。という時代から「録音したデータを送ってもらおう」に変わってきています。もちろんまだまだスタジオ収録のほうが多いとは思いますが、宅録に依頼する制作物はド、ドド、ドドドー!と増加の一途。
そりゃ安くて早くてイイ音を通販方式でプロが作ってくれるなら、それで済ませますよね。
ただ、きちんとしたスタジオで経験値の高いナレーターを起用して制作することは、手間とコストをかけただけの価値があるので、おトクおトク旋風に流されないで~とも思います。私が言うのもヘンですが。

宅録の「安く・早く・イイ音を・プロが」もイロイロです。本当はスタジオと宅録を比較するのもおこがましい次元で。(「スタジオ」にもイロイロあるので、ここでは業務スタジオを指しています。)
宅録制作を請け負う側は、機材・技術・知識なども含めて、どの程度のプロなのか。ここがもう少し見えればいいのになと思ったりもしています。…書いてて自分もこわくなってきますが。

スタジオ収録 or 宅録、それぞれざっくりと比較しながらみていきます。

◆音の違い?

当然ですが、スタジオは間違いのない音づくりをしてくれます
そんなにいい音質は必要ないという方もいらっしゃるかと思いますが、録る時点での環境/機材/調整、録ったあとの処理、どれをとっても違います。「スタジオと大差ない」「BGMをかぶせるから関係ない」などはひとつの意見ですが、宅録する側の人間がこれを言ってしまったらダメだよなあと思っています。

*繰り返しになりますがここで言うスタジオとは、設備投資がなされたプロユースのスタジオです。簡易施工の収録ブースなどの場合は、収録時に環境ノイズでストップしたり、編集も宅録レベルの仕上がりということもなくはないです。

一方、宅録の音は、当たりはずれがあります
小さすぎる音、大きすぎる音、遠い音、大小が安定しない音、ノイズが多い音。それは編集でどうにでもなるのでは?という問いには「いいえ」と答えておいたほうがいいのかもしれません。おそろしいレベルの音もあるのです。その音がそのまま納品されてきてしまったら…編集はかなりつらいです。

ナレーターをとりまとめている宅録業者にもいろいろあります。中身をチェック+整音してから納品するところ。これが当たり前な気がするのですが、文章の読み違いのみさらっとチェックして整音はせず転送するところ、さらには何も確認せずお客様へ転送しているところもあります。(たしかに宅録音声を納品しているので詐欺ではないんですが。)

宅録を承ります、と書いて、ホームページにはスタジオで録ってもらったボイスサンプルを掲載しているパターンも多いので。宅録での音を確認のうえ、ご依頼されることをおすすめします

ちなみに、宅録に取り組んでいるナレーターはほぼ独学、もれなく試行錯誤しているはずです。何を知らないのかすらわからないところから、仮のOKラインをどこに引いて進んでいるか。ここで音の仕上がりに差がつく気がします。
改善することがたくさんあるのに本人はこれでいいと思っている。ここで止まると、ハズレの音を売ることになってしまいます。お客様がクレームとして丁寧に教えてくれることもほぼないので、よい方向に変化するためには本人の探求心が必要なのです。

とにかく、勉強を重ねていかないと、知らないままのことばかり。私も勉強しても勉強しても足りていないので大きなことは言えないのですが…

宅録業者もまったくの素人から参入していることもあるので、業界ごとの音量基準やサンプルレートの使い分けなど、大前提がわかっているところに依頼されるほうがいいと思います。

 

◆収録に立ち会うか、おまかせか

スタジオでの収録は、読みのニュアンスなど細かくディレクションしながら進められます。読み違いの有無もその場で録り直しできますし、急に言い回しを変えたくなっても対応可能です。時間的な制約もあるのでどこまでも追及できるわけではないですが、現場でやりとりしながら進められることは大きなメリットです。

宅録の場合は、ある程度のリクエストを伝えたら、あとはおまかせになります。
「思ったとおりに読んでもらえた」「思った以上にわかりやすく読んでもらえた」を目指して収録しますが、「思っていたのと違った」ということもなくはありません。

立ち会った場合には「今のはもうちょっと優しく言ってください」「この部分はもっとゆっくり」などとやり直しながら録れますが、データ納品の場合は後日の修正対応になります。
なお、明らかに変な区切りで読んでいたり、読み間違えていない限り、修正のための再収録は有料になります。無料にしているところもありますが、オフィスあるこでは作業コストとして幾ばくかを頂戴しています。「間違っていないのにダメ出しされたプンプン!」等は申しません、ご希望に近い制作物にすべく尽力しますのでご理解ください。

宅録を依頼されるときは、発注時点で細かく要望を伝えておく、参考になる材料を渡しておく、などのコミュニケーションがあると希望に近づけるかと思います。

なお、宅録は読みを一任するわけですので、読解力/判断力/読み上げる力が、ある意味スタジオ立ち合い収録よりも必要かと思っています。

ナレーターの経験値によって、事前確認の質も変わります
アクセントや文意構成などしっかりと下読みをして、不明箇所については確認をとります。二択三択が考えられる場合は、こんなことまで聞いたらバカだと思われるかもということでも念のため確認しておきます。(自己流で間違えて録り直し発生、完成が遅れてしまったらそのほうがバカだと思うので…)

オフィスあるこの場合は、下読み時点で、用語等が統一されていない場合は確認をとる、言葉の誤用に気づいたときは修正案を出す、音ではわかりづらいものには言い換えの提案をする、などもしています。出過ぎたことかとは思いますが、あれ?と思いながらもそのまま読んで、相手から言われるまで知らなかったことにするのはどうにもソワソワしてしまうのです。

この確認作業は、自分がナレーションするときだけではなく、提携ナレーターに依頼する仲介者の立場でも必ず行っています。[オフィスあるこナレーション音声制作]として、おまかせされたことにできる限り応えていけるよう心がけています。

 

◆手配の労力もコストのひとつ

スタジオ立ち合い収録の場合、各所手配、スケジュール調整が必要です。クライアント、制作スタッフ、スタジオ、ナレーター。制作担当者はそれぞれのスケジュールをすり合わせてブッキングしなくてはなりません。地味に大変です。スケジュールを聞かれる立場で返事に時間がかかってしまうと、ああごめんなさい待たせてごめんなさい、と心の中で詫びています。必要な業務ですが、調整にかかった時間もコスト換算するとばかになりません。
そしてめでたく集合した収録時間。そこにもコストがかかります。収録時間が延びればスタジオ費/エンジニア費もかさんでいきます。

*これらのコストがよくないと言っているのではありません。丁寧な制作ができますし、正しく使えばコストをかけた分、質は向上すると思います。また、MAをスタジオでやってもらえるのも制作の労力面では大きいかもしれません。

宅録の場合は、行程上、納期の折り合いをつけるところで済みます。大至急、収録してほしいという場合にも、ナレーター1人のスケジュール調整だけで済みます。
また、データ納品のため、地理的な制約はありません

 

◆修正や改訂も?

あとから直しを入れたくなったとき。あとから間違いに気づいてしまったとき。

スタジオ収録の場合は、同じスタジオを予約し直し、ナレーターのスケジュールを取り直すことになります。時間もお金も、再びふくらんでいきます。

これに比べて宅録の場合は、小さなコストで済みます
ちなみに念のためお伝えしておきたいのが、作るときは一発で、が理想です。いつでも直せるから~、とポロポロつぎはぎをしたものは、あまりいい結果にならない気がします。

 

・・・以上をまとめます。(書きなぐりの表で汗

わたしごときがズケズケと書き連ねて、内心ふるえあがっていますが…

依頼するにあたり、なにを優先するかによっても選択は変わりますよね。
スタジオ収録 or 宅録、どちらにするか。
そしてどんなところに頼むか。
ご判断のモノサシとなれたら幸いです。

[オフィスあるこナレーション音声制作] 運営兼ナレーター 木場本和枝